今回の移籍市場を賑わせたのは、クリスティアーノ・ロナウド選手とメッシ選手で間違いない。
イタリア・セリエAのユベントスで今シーズンの開幕戦に出場したロナウド選手が、急転直下で古巣でもあるイングランド・プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドへの電撃移籍が決まった。
一方、世界に衝撃を与えたのがメッシ選手だ。バルセロナ退団の一報はまさに青天の霹靂だった。昨シーズンで契約が満了し、新シーズンに向けて再契約に向けて調整が進んでいると思った矢先の退団発表だった。
新しい所属先としてパリ・サンジェルマンへの入団があっさりと決まってしまったが、バルセロナのメインスポンサーを務める楽天絡みでヴィッセル神戸の名前が出たことは時代の流れだろう。
そもそも日本人選手を見ると今回は例年以上にJリーグ復帰が多かった印象を受ける。ヨーロッパのクラブに所属しながらステップアップを実現させた選手は少なかったのも事実だ。
比較的に安価な移籍金で獲得できる日本人選手に対して手を挙げないとなると、もしかしたら欧州市場では日本人選手の価値が下がってきているのかもしれない。
目次
4大リーグは苦戦傾向
特に攻撃陣は予想以上に動きがなかった。
ヨーロッパでは攻撃的なポジションでプレーする日本人選手の評価は低い。特にFWは全滅だ。
昨シーズン、所属するベルギー1部のシントトロイデンで ゴールの活躍を見せた鈴木優磨選手がステップアップ移籍に最も近いと思っていたが、実現せずに残留することになった。獲得を希望するクラブはあったが、自身の希望通りにはいかなかったということだろうか。
また日本が誇る2列目が主戦の選手達も現状維持となった。
有力視されていた、フランクフルトの鎌田大地選手、ゲンクの伊東純也選手もステップアップ移籍は実現しなかった。PSVの堂安律選手もドイツ1部リーグへの完全移籍が噂されたが実現せずに残留となった。
一方、守備陣の選手にはビッグクラブへのステップアップが実現した。
冨安健洋選手がイタリア1部のボローニャからイングランド1部リーグのアーセナルへ完全移籍を果たした。移籍金は推定で1,980万ポンド(約30億円)と日本人選手にとっては歴代3位の大型移籍となった。
アーセナルといえば、稲本潤一選手(現SC相模原)、宮市亮選手(現横浜F・マリノス)、浅野拓磨選手(現ボーフム)が在籍していたチームだがほとんど出番を与えられることはなくレンタル移籍に出されてしまった苦い思い出もある。
冨安選手は9月28日時点でリーグ戦で3試合連続先発出場で直近2試合はフル出場とある程度戦力と計算されているので、新たな時代の扉を開けたといっても過言ではない。
ちなみに2021-2022シーズン夏の移籍市場での大型契約といえば、アストン・ヴィラからマンチェスター・シティへ移籍したジャック・グリーリッシュ選手が約141億円。
ドルトムントからマンチェスター・ユナイテッドへ移籍したジェイドン・サンチョ選手が約100億円と目立ったくらいか。ヨーロッパの移籍市場では毎回移籍金の金額で盛り上がるのだが、今年はこの2選手が特に目立った。
※歴代日本人選手移籍金ランキング(2021年9月現在)[レートは当時のもの]
選手名 | 所属先 | 移籍先 | 推定移籍金 | |
1位 | 中島翔哉 | ポルティモネンセ | アル・ドゥハイル | 約43億7,000万円 |
2位 | 中田英寿 | ローマ | パルマ | 約32億5,000万円 |
3位 | 冨安健洋 | ボローニャ | アーセナル | 約30億円 |
4位 | 香川真司 | ドルトムント | マンチェスター・U | 約20億円 |
5位 | 岡崎慎司 | マインツ | レスター | 約13億7,000万円 |
4大リーグの2部からステップアップを狙っている選手はいる。
マンチェスター・シティからドイツ2部シャルケにレンタル移籍となった板倉滉選手、川崎フロンターレからドイツ2部デュッセルドルフにレンタル移籍した田中碧選手はその筆頭候補だろう。
4大リーグでドイツやスペインの2部リーグでプレーすることはそこまで悪いことではない。カップ戦では組み合わせによって1部のクラブと対戦できる可能性があるし同じ国内ならスカウトの目に止まりやすいからだ。所属クラブで誰もが認める結果を出せば、今シーズンの冬の移籍市場でのステップアップも夢ではないだろう。
4大リーグには含まれていないが次点のフランスリーグでは、2部トゥールーズに移籍したオナイウ阿道選手も存在感を見せている。
9月28日時点でリーグ戦10試合に出場し5ゴールとここまで好調。今後は相手も対策してくると思われるが、その中でもFWとしてゴールをどこまで伸ばせるかで冬の移籍市場でのステップアップ、またはチームを1部昇格に導くことが出来れば自ずと評価は上がってくる。
若手選手の動向
クロアチア1部イストラからスペイン1部アラベスへ移籍した原大智選手だったが、チーム事情でベルギー1部のシントトロイデンに期限付き移籍となった。
昨シーズンまで主力FWだったホセル選手がセビージャの移籍話が無くなり、アラベスへの残留が決まったため人員整理の煽りを受けた形での放出となったため、開幕戦にベンチメンバーに名を連ねていただけに残念な気持ちが強い。
シントトロイデンでは出番はあるものの後半途中投入が続いているので、スタメンを取れないとスペインに戻った時に苦しくなりそうだ。
サプライズは、ジュビロ磐田からドイツ1部シュトゥットガルトに期限付き移籍した伊藤洋輝選手だ。
当初はU-23チームでプレーする予定だったが、プレシーズンからトップチームに入ると、DFBポカール1回戦で公式戦初出場を飾った。その勢いのままブンデスリーガ開幕戦はベンチ入りメンバーに名を連ねると、第2節までは出番が与えられなかったが、第3節のフライブルク戦の後半16分から途中出場しブンデスリーガデビューを飾っている。
ここまでは絵に書いたようなシンデレラストーリーだ。だが問題はチームが開幕ダッシュに失敗し、第6節を終えてリーグ13位(1勝3敗2分)と低迷していること。
昨シーズン16得点を挙げてブレイクしたFWサシャ・カライジッチ選手の負傷で勝ちきれないのもあるが、守備陣の失点も多い印象だ。
原大智選手、伊藤洋輝選手に共通しているのは、現在の所属クラブで明確な結果を出すこと。
公表されている契約内容を見ると、原選手は1年後はアラベスに戻る予定になっているし、実際に今シーズンのラ・リーガ開幕戦にベンチ入りしていたのだからチームとしての評価は高いと見ている。
伊藤選手も買取OP付きのレンタル移籍なので、結果を出せばドイツの古豪シュトゥットガルトに完全移籍できる可能性もあるので、1年後にはどうなっているか楽しみにしたい。
もしW杯出場権を獲得できたなら2022カタール大会で日本代表の秘密兵器としての期待もできる。
海外組のJリーグ復帰
今回は例年以上にJリーグ復帰が多かったように思う。特に日本代表で2018ロシアW杯にも出場した海外組がJリーグに返ってきた。
ヴィッセル神戸には大迫勇也選手がドイツ2部のブレーメンから移籍し、イングランド1部のニューカッスルを退団した武藤嘉紀選手が加入した。
浦和レッズには酒井宏樹選手がフランス1部のマルセイユから移籍した。
セレッソ大阪にはスペイン2部のエイバルを退団した乾貴士選手が加入し、FC東京にはマルセイユを退団した長友佑都選手が加入し共に古巣復帰となった。
海外組がJリーグに復帰すると注目度が増してしまう傾向にあるので、Jリーグ復帰組についてはリーグ戦などでのプレー面で動向を追っていただきたい。最初は興味本位で報道するメディアもあるが、落ち着いたら同列扱いになるので良いプレーを見逃してしまうことがあるので注意が必要だ。
海外組日本人選手の場合は、チームの勝ち負けではなく選手の出場機会やゴール、アシストの結果などの情報の方が伝わってくることが多い。一方、Jリーグはクラブの結果が1番にあり日本人選手個人のスタッツが掲載されることは特定選手に限られている。
海外組と国内組では情報発信にも差が出てしまうし、移籍によって大きく露出を増やす選手もいる。忘れた頃に試合を決定づけるプレーや日本代表招集で再びスポットを浴びせるような情報発信は多様性の現代において時代遅れだ。
日本人選手移籍動向一覧
【海外組】
1部リーグ
選手名 | 所属先 | 移籍先or入団先 | 備考/移籍金・契約など |
南野拓実 | サウサンプトン | リバプール | 保有元復帰(レンタルバック) |
冨安健洋 | ボローニャ | アーセナル | 約30億円で完全移籍。4年契約 |
久保建英 | レアル・マドリード | マジョルカ | 年俸負担(約2億6,000万円)1年間のレンタル移籍 |
原口元気 | ハノーファー | ウニオン・ベルリン | フリー移籍(移籍金ゼロ) |
遠藤渓太 | 横浜F・マリノス | ウニオン・ベルリン | 買取OP行使(約1億3,000万円)で完全移籍 |
浅野拓磨 | パルチザン | ボーフム | 移籍金ゼロ。3年契約 |
奥川雅也 | ザルツブルク | ビーレフェルト | 買取OP行使による(約2億6,000万円)完全移籍 |
伊藤洋輝 | ジュビロ磐田 | シュトゥットガルト | レンタル料(約6,250万円)1年間のレンタル移籍 |
堂安律 | ビーレフェルト | PSV | 保有元復帰(レンタルバック) |
林大地 | サガン鳥栖 | シント・トロイデン | 完全移籍(金額不明) |
原大智 | イストラ | アラベス | 完全移籍(金額不明)2年契約 |
原大智 | アラベス | シント・トロイデン | 1年間のレンタル移籍(レンタル料不明) |
三笘薫 | 川崎フロンターレ | ブライトン | 完全移籍(約3億9,000万円)4年契約 |
三笘薫 | ブライトン | ユニオン・サン=ジロワーズ | 1年間のレンタル移籍(レンタル料不明) |
川辺駿 | サンフレッチェ広島 | グラスホッパーズ | 完全移籍(金額不明)3年契約 |
古橋亨梧 | ヴィッセル神戸 | セルティック | 完全移籍(約6億1,000万円)4年契約 |
川崎修平 | ガンバ大阪 | ポルティモネンセ | 完全移籍(詳細不明) |
中島翔哉 | ポルト | ポルティモネンセ | 1年間のレンタル移籍(レンタル料不明) |
食野亮太郎 | マンチェスター・C | エストリル・ブライア | 1年間のレンタル移籍(買取OP付き) |
中村敬斗 | ガンバ大阪 | LASKリンツ | 完全移籍(詳細不明) |
本田圭佑 | ネフチ・バクー | スドゥバ | フリー移籍。契約は2021年12月まで |
2部リーグ
選手名 | 所属先 | 移籍先or入団先 | 備考/移籍金・契約など |
岡崎慎司 | ウエスカ | カタルヘナ | フリー移籍(移籍金ゼロ) |
板倉滉 | マンチェスター・C | シャルケ | 1年間のレンタル移籍(買取OP付き) |
田中碧 | 川崎フロンターレ | デュッセルドルフ | 1年間のレンタル移籍(買取OP付き) |
オナイウ阿道 | 横浜F・マリノス | トゥールーズ | 完全移籍(約1億円) |
植田直通 | セルクル・ブルージュ | ニーム | 買取OP行使による完全移籍(金額不明)2年契約 |
その他
選手名 | 所属先 | 移籍先or入団先 | 移籍期間 |
二田理央 | サガン鳥栖 | インスブルックU-23 | 2022年6月30日まで |
鈴木輪太朗イブラヒーム | ヴォルティス徳島 | バレンシアU-19 | 2023年6月30日まで |
【国内組】
選手名 | 所属先 | 移籍先or入団先 | 推定移籍金(円) |
長友佑都 | マルセイユ | FC東京 | フリー移籍 |
乾貴士 | エイバル | セレッソ大阪 | フリー移籍 |
酒井宏樹 | マルセイユ | 浦和レッズ | 約2億円 |
大迫勇也 | ブレーメン | ヴィッセル神戸 | 約2億円 |
武藤嘉紀 | ニューカッスル | ヴィッセル神戸 | フリー移籍 |
宮市亮 | ザンクト・パウリ | 横浜F・マリノス | フリー移籍 |
安西幸輝 | ポルティモネンセ | 鹿島アントラーズ | 完全移籍(金額不明) |
木下康介 | スターベク | 浦和レッズ | 完全移籍(金額不明) |
あとがき
一覧にまとめてみたが、改めて4大リーグへステップアップの難しさを痛感した。Jリーグから海外リーグへ簡単に移籍できるようになった現代だからこそ1度考え直す時期が来たと考える。
私が海外移籍に関して危惧することもある。ベルギー1部のシント・トロイデン、ポルトガル1部のポルティモネンセ、この2チームに移籍が実現したとしても個人的にはあまり喜べないことだ。
海外クラブなのに日本人選手が3選手以上在籍していることは外国人枠のことを考えるとあまり良いことではない。各国リーグの規定によるところもあるが、本来の海外移籍の意義を見失っている可能性も考えられる。選手が結果を出せば問題ないが、この2チームは近年1部残留争いに巻き込まれているので現地メディアの情報が知りたいところだ。
こういった背景から「比較的に安価な移籍金で獲得できる日本人選手に対して手を挙げないとなると、もしかしたら欧州市場では日本人選手の価値が下がってきているのかもしれない」という仮説は間違っていないのかもしれない。
日本人選手を獲得しても1部残留争いに巻き込まれるなら、別の選手を獲得しようとクラブ幹部は考えるだろう。何が何でも日本人選手を…となると日本市場をターゲットにしたパフォーマンスにしか思えなくなってしまった。
日本人選手獲得に消極的だった理由が世代交代の狭間といった考えた方も出来る。
30代に突入した選手たちの市場価格は今後下がっていくだろう。出場機会を望んだ結果がJリーグ復帰なのは間違いではない。ステップアップが期待された20代後半の選手として1番脂が乗っている時期に納得するオファーが届かなかったのかと思うと残念だ。
今のチームでプレーしたいと思っての残留なら良いことだが、それならポジション争いに勝つ必要が出てくる。毎試合ごとにベンチ入りするも出番なし、ベンチ外といった報道しか目にしないのは寂しいだけだ。
東京五輪世代の中心となった選手たちの多くは既にどこかの海外クラブに所属していたため獲得には多額の移籍金が発生する。
結果はベスト4だが、準決勝のスペイン戦、3位決定戦のメキシコ戦に敗れたことで評価は伸びなかったのかもしれない。逆にJリーグ所属の選手たちは表面上は簡単に海外移籍を成功させている。第3者の意見としては選手の評価と市場価格が複雑に混ざり合っているのだろうと安易な予測しかできないことが虚しい。
次のターゲットになるのはパリ五輪世代の選手たちになるだろう。既に有望株の選手にはレンタル移籍での打診が始まっているようにまだJリーグでも頭角を出していない選手たちにも海外クラブは注視している。
2021-2022シーズン冬の移籍市場でどういった変化が出てくるかはまたその時のお楽しみだ。
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